LINEやSNSの投稿は時系列で流れていくため、過去の情報を探し出すのが困難です。一方、メルマガは1通1通にタイトルが付き、受信トレイに蓄積されるため、住民が後から検索して参照できる「ストック型」の情報発信手段です。
制度の申請期限、補助金の申請方法など、住民が「あとで確認したい」と思う行政情報は、メルマガとの相性が優れています。
総務省「令和6年通信利用動向調査」(2025年5月公表)によると、50歳以上の各年齢階層ではインターネット利用目的として「電子メールの送受信」が最も高い利用率を示しています。一方、13〜49歳では「SNS(無料通話機能を含む)の利用」がトップ(全体81.9%)です。
つまり、高齢者層にデジタルで情報を届けるには、LINEやSNSだけでなくメールが不可欠です。「誰一人取り残さない」という自治体DXのビジョンを実現するためにも、メルマガは重要なチャネルといえます。
出典
LINEやSNSは便利ですが、特定の企業プラットフォームに依存するリスクがあります。障害発生時には情報発信が完全に停止しますし、利用規約やアルゴリズムの変更により、これまで届いていた情報が届かなくなる可能性もゼロではありません。
メールはインターネットの基幹インフラであり、特定企業に依存しません。防災情報のように確実に届ける必要がある情報の配信手段として、メールの安定性は大きな強みです。
自治体の情報発信では「メルマガとLINEのどちらを使うべきか」がよく議論されます。結論から言えば、どちらか一方ではなく併用が最適解です。それぞれの特性を理解した上で、目的に応じた使い分けが重要です。
LINEは、日常的な連絡手段として定着しているため、メルマガより開封率が高い傾向にあります。また、家族や友人と同じ「トーク一覧」に通知が届くため、自然に目に入りやすいのが強みです。
さらに、メルマガは「アドレス変更・間違い」や「迷惑メール分類」で届かないケースがありますが、LINEはブロックされない限り確実に届きます。
一方で、メルマガは、「制度の詳細や背景をじっくり読ませる」「記録として残してもらう」といった、情報のストック(蓄積・検索)に長けています。
| 比較項目 | メルマガ | LINE公式アカウント |
|---|---|---|
| 開封率 | 20%程度 ※行政からのメールは高い傾向あり |
60%程度 |
| 到達率 | 約50% (アドレス変更・迷惑メール分類あり) |
ほぼ100% (ブロック除く) |
| 情報のストック性 | 高い(検索・整理が容易) | 低い(古い情報が流れる) |
| 文字数制限 | なし(詳細な情報伝達が可能) | 1吹き出し500文字まで |
参照
自治体は「すべての住民に平等に情報を届ける」義務があります。
LINE利用率は全年代平均94.9%(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」)と極めて高いものの、残り約5%の住民、特に高齢者やデジタルに不慣れな層をカバーするにはメルマガが有効です。
メルマガとLINEは競合するツールではなく、補完し合うツールとして活用しましょう。
| 情報の種類 | 推奨チャネル | 理由 |
|---|---|---|
| 災害・緊急情報 | メール+LINE+SNS(併用) | 複数手段で確実に届ける |
| 制度の詳細説明・申請案内 | メルマガ | 文字数無制限で詳細に伝えられる |
| イベント告知・速報 | LINE優先 | プッシュ通知で即座に届く |
| 子育て・若年層向け情報 | LINE優先 | 20〜30代のLINE利用率が高い |
| 高齢者向け情報 | メルマガ+紙媒体 | LINE未利用者への対応 |
| 観光・移住促進 | SNS(Instagram等)+メルマガ | 視覚訴求+詳細情報の組み合わせ |
自治体のメルマガで配信される情報は、大きく4つのカテゴリに分類されます。
地震・大雨・台風などの気象警報、避難指示、不審者情報、火災情報などの緊急性の高い情報です。多くの自治体が「防災メール」「安心安全メール」として独立した配信を行っています。J-ALERT(全国瞬時警報システム)と連携した自動配信に対応するシステムを導入する自治体も増えています。
参考
国民健康保険料の減額申請期限、確定申告の日程、各種補助金の申請方法、ワクチン接種のスケジュールなど、住民に直接関わる行政情報です。制度の詳細を「じっくり読ませる」「記録として残してもらう」といった、情報のストックに長けた強みが活きます。
子どもの年齢に合わせた予防接種の案内、保育園の入園申込スケジュール、高齢者向けの健康診断案内など、ライフステージに応じた情報はセグメント配信との相性が抜群です。
地域のお祭り、市民講座、図書館イベント、観光スポット紹介など、地域の魅力を発信する情報です。HTMLメールを活用すれば、写真やバナーを交えた視覚的に魅力的な配信が可能です。
ここからは、メルマガを活用して具体的な成果を上げている自治体の事例を紹介します。
横浜市は、全庁横断的にメールマガジンのポータルページを設置し、複数の部署がそれぞれ独自のメルマガを配信しています。
主なメルマガには、広報紙の内容を毎月1日に届ける「広報よこはま電子メール配信」、総務局が気象警報・注意報、緊急なお知らせなどを届ける「防災情報Eメール配信サービス」、港湾局が客船入港予定やイベント情報を月1回届ける「横浜港クルーズメール」など、複数の系統が並立しています。
住民は関心のある分野だけを選んで登録できるため、情報の取捨選択がしやすい点が特徴です。
参考
仙台市では、メールアドレスを登録した住民に対し、イベント情報・子育て情報・ごみ収集情報など多様なジャンルの情報を電子メールで届ける「仙台市メール配信サービス」を運営しています。
防災分野では、2006年から災害発生情報や避難情報、防災気象情報を知らせる「杜の都防災メール」を提供しています。
東日本大震災の教訓を踏まえ、防災行政無線・緊急速報メール・SNS・登録制メール・ホームページへの一括配信を実現し、1つの手段に依存しない情報発信を推進。
現在はLINE公式アカウントでも杜の都防災メールの情報を受け取れるように連携しており、市民の利用環境に応じたチャネル選択が可能です。
参考
川崎市の「メールニュースかわさき」は、市政に関するさまざまな情報を、利用者の希望に応じて電子メールで配信しています。総務企画局シティプロモーション推進室の広報担当が管理・運営しています。
配信内容は、ホームページの新着情報や防災気象情報のほか、多岐にわたるジャンルの情報をカバーしており、防災気象情報、消費者行政情報、感染症情報、各区の消防活動情報などのカテゴリから住民が必要な情報だけを選択して受け取れる仕組みです。
空メール送信による簡易登録にも対応しており、スマートフォン・携帯電話・PCのいずれからでも手軽に登録できます。
参考
| 指標 | 意味 | 目安 (行政カテゴリ) |
計測方法 |
|---|---|---|---|
| 開封率 | 配信数に対して開封された割合 | 25〜40% | HTMLメールのWebビーコン |
| クリック率(CTR) | 配信数に対してリンクがクリックされた割合 | 2〜5% | リンクトラッキング |
| クリック開封率(CTOR) | 開封者のうちリンクをクリックした割合 | 10〜15% | CTR÷開封率 |
| 配信解除率 | 1回の配信で解除された割合 | 0.5%未満 | 配信システムの管理画面 |
| バウンス率 | 送信エラーで届かなかった割合 | 2%未満 | 配信システムの管理画面 |
| 迷惑メール報告率 | 迷惑メールと報告された割合 | 0.1%未満(0.3%厳守) | Google Postmaster Tools |
出典:Mailchimp「Email Marketing Benchmarks」、MailerLite「Email Marketing Benchmarks 2025」(360万キャンペーン分析)、Google「メール送信者のガイドライン」
Apple社がiOS 15(2021年9月)で導入した「Mail Privacy Protection(MPP)」により、iPhoneのApple Mailユーザーは実際に開封していなくても「開封済み」として記録される場合があります。このため、近年のグローバル調査では開封率が以前(15〜20%)より高めに出る傾向にあります。
そのため、より信頼性の高い指標として、クリック率(CTR)やクリック開封率(CTOR)を合わせてモニタリングすることを推奨します。
出典
(1)大量配信の処理能力:住民数が数万〜数十万人規模の場合、毎時100万通以上の配信能力が求められます。防災情報は特に速度が重要です。
(2)セグメント配信機能:地域別・年代別・関心分野別の配信ができるかどうか。住民が受信カテゴリを自分で選べる機能があるとなお良いです。
(3)セキュリティ:ISMSやプライバシーマーク等の認証取得状況、過去の情報漏洩事故の有無を確認しましょう。
(4)SPF・DKIM・DMARC対応:2024年2月に施行されたGmailの新ガイドラインにより、メール認証への対応は必須になりました(詳細は第8章で解説)。
(5)HTMLメール作成機能:HTMLの知識がなくてもテンプレートから視覚的に作成できるエディタがあるか。
(6)効果測定機能:開封率・クリック率・解除率などを管理画面で確認できるか。
(7)サポート体制と費用:操作研修の提供有無、電話サポートの対応時間、月額費用と配信数の関係を確認しましょう。
Benchmark Japan社の調査では、メルマガ購読者の49.8%が「件名を見て開封するかどうかを判断する」と回答しています。件名はメルマガの「顔」であり、開封率に最も大きな影響を与える要素です。
出典
PCでは約25文字、スマートフォンでは約15文字が表示限界とされています。最も重要な情報を冒頭14文字以内に配置し、スマートフォンでも切れずに伝わるようにしましょう。
件名に数字を含むメールは開封率が約45%高いというデータがあります。「5つのポイント」「○月○日まで」「残り3日」など、具体的な数字で住民の関心を引きましょう。
出典:Yesware社調査(120万通分析)、マイナビ記事経由
自治体メルマガでは【防災】【子育て】【イベント】など、冒頭に分野を示すことで、住民が自分に関係のある情報かどうかを瞬時に判断できます。
自治体向け件名の具体例
(1)転入届・各種手続きの窓口で案内:転入届の際にメルマガ登録のチラシを手渡し、QRコードで簡単に登録できるようにする方法です。特に転入者は地域情報へのニーズが高いため、登録率が見込めます。
(2)防災メール登録時に広報メルマガも案内:防災メールは関心が高く登録されやすいため、登録完了画面や確認メール内で広報メルマガも案内することで、自然な導線で登録者を増やせます。
(3)広報誌・ポスター・回覧板での告知:紙媒体に空メール送信先やQRコードを掲載し、紙からデジタルへの移行を促します。特に空メール登録はURL入力が不要なため、高齢者にも簡便です。
(4)セグメント配信を前面に訴求:「自分に関係のある情報だけを選んで受け取れます」というメッセージは、情報過多を嫌う住民にとって大きな登録動機になります。
(5)登録フォームの簡素化:入力項目はメールアドレスと受信カテゴリの選択のみに絞り、離脱を防ぎましょう。氏名・住所等の入力は登録のハードルを大きく上げます。
Googleは2023年10月に新しい「メール送信者のガイドライン」を発表し、2024年2月1日から段階的に適用を開始しました。2025年11月以降は違反措置が本格強化されるため、自治体のメール配信担当者も対応が必要です。
出典
SPFまたはDKIMの設定:送信元ドメインの正当性を証明するメール認証技術です。未設定の場合、Gmailで迷惑メールに分類されるリスクが高まります。
迷惑メール率を0.3%未満に維持:Google Postmaster Toolsで自組織の迷惑メール率を定期的に確認し、0.1%未満を目標に管理しましょう。
自治体のメルマガは住民数に応じて数万〜数十万通の配信になるため、多くの場合この要件に該当します。
SPFとDKIMの「両方」を設定:「どちらか一方」ではなく、両方の設定が必須です。
DMARC認証の設定:なりすましメール対策の認証技術です。ポリシーは「none」から始めて段階的に強化することが推奨されています。
ワンクリック配信解除の実装:メール内に配信解除リンクを設け、1クリックで解除が完了する仕組みが求められます。
| 認証技術 | 役割 | 設定場所 |
|---|---|---|
| SPF | 送信元ドメインが正規の送信サーバから発信されたことを証明 | DNSにTXTレコードを追加 |
| DKIM | メールにデジタル署名を付与し、改ざんされていないことを証明 | DNSにDKIMレコードを追加 |
| DMARC | SPF/DKIMの認証結果に基づく処理方針を指定。レポート機能あり | DNSにDMARCレコードを追加 |
これらの技術的な対応は、利用中のメール配信システムのサポートに確認するのが最も確実です。主要な配信システムは2024年のガイドライン施行に合わせて対応を完了しています。
特定電子メール法(平成14年法律第26号)は、広告・宣伝を目的とするメールの送信を規制する法律です。主な規制内容として、オプトイン規制(事前同意の取得)、送信者情報の表示義務、オプトアウト対応(受信拒否者への送信禁止)、同意記録の保存義務があります。
ただし、地方公共団体が送信するメールは、原則として特定電子メール法の規制対象外です。同法は「営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人」が送信する広告宣伝メールを対象としており、非営利団体である自治体は原則として適用除外となります。
ただし、ふるさと納税のPRや観光商品の販売促進など、営利的要素を含むメールは規制対象となる可能性があるため注意が必要です。
出典:総務省「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」平成23年8月
2023年4月の個人情報保護法一元化により、地方公共団体にも統一ルールが適用されています。メールアドレスは氏名等と組み合わせて特定個人を識別できる場合、個人情報に該当します。利用目的の特定・明示、安全管理措置の実施、漏えい時の報告義務(2022年4月〜義務化)に対応する必要があります。
メール配信システムを選定する際は、個人情報の管理体制、暗号化の有無、アクセス制限の仕組み、過去の漏えい事故の有無を必ず確認しましょう。
メルマガは単独の施策ではなく、Webサイト・LINE・SNS・広報誌を含む自治体の情報発信戦略全体の中に位置づけることで最大の効果を発揮します。メール配信システムの導入だけでなく、配信コンテンツの制作、Webサイトとの連携、効果測定と改善まで、一貫した支援ができるパートナーの存在が重要です。
EWMグループは、東京都や佐賀県をはじめとする多数の自治体・官公庁との取引実績を持つWebインテグレーション企業です。
多数の開発実績と、HubSpot Solutions Partnerとしてのマーケティング支援を活かし、自治体のデジタル広報をワンストップで支援しています。
Webサイト制作・運用代行、コンテンツ更新代行、SNS広告運用、マーケティング戦略立案から、メルマガ用コンテンツの企画・制作、HubSpotを活用したメール配信・MA(マーケティングオートメーション)の導入支援まで対応可能です。
本記事では、自治体のメルマガ・メール配信について、SNSとの比較、成功事例、配信システムの選び方、開封率を上げるテクニック、Gmailの新ガイドライン対応まで包括的に解説しました。
改めて要点を整理します。
第一に、行政メールの開封率は全業種中トップクラスであり、自治体のメルマガは「読まれるメール」です。Mailchimpの調査で40.55%という開封率は、メルマガが依然として自治体にとって強力な情報発信手段であることを示しています。
第二に、メルマガとLINEは「排他的選択」ではなく「補完関係」にあります。LINEの即時性・到達率の高さと、メルマガのストック性・詳細伝達力・年齢層の広さを組み合わせた併用戦略が、住民への情報到達率を最大化します。
第三に、セグメント配信と効果測定がメルマガ成功の鍵です。住民が「自分に関係のある情報だけ」を選べる仕組みと、開封率・クリック率に基づくPDCA改善の実践が、長期的な運用の質を高めます。
自治体の情報発信は、広報誌・Webサイト・メルマガ・LINE・SNSの各チャネルを統合的に活用することで初めて「誰一人取り残さない」情報伝達が実現します。本記事が、その第一歩のお役に立てれば幸いです。