地域活性化における観光の重要性

地域活性化とは、地域の個性を活かし、経済・社会の両面で持続可能な活力を創出することを指します。観光はこの実現において重要な役割を担います。
例えば、地元の特産品や文化、自然環境などを観光資源として活用することで、地域に新たな価値を付加し、訪問者を引き寄せることが可能です。また、観光客の来訪は地域経済を活性化させ、地元企業の売上増加や新たな雇用創出につながります。
観光を通じて地域の魅力を再発見し、住民自身が地元に誇りを持つことも地域の活力に寄与するものです。さらに、地域の知名度が向上することで、外部からの投資や新たなビジネスチャンスを呼び込みやすくなります。
観光を通じた地域活性化のメリット

以下では、「自治体」「住民」「地域企業」の3つの視点からメリットを整理します。
自治体にとってのメリット
観光を通じた地域活性化は自治体にとって多くのメリットをもたらします。
観光消費の拡大は地元産業の活性化と雇用創出を促すだけでなく、税収増を通じた財政基盤の強化に直結します。税収が向上することで公共サービスの充実やインフラ整備に充てる資金が確保でき、住民の生活の質向上と地域の魅力向上が循環する仕組みが生まれます。
また、ブランディングによる知名度向上は投資や人材流入といった成長エンジンを呼び込む契機となります。
住民にとってのメリット
観光を通じた地域活性化は、住民にとっても多くのメリットをもたらします。例えば、観光客の訪問によって地域の生活環境が改善されることで、交通インフラや公共施設の整備が日常生活の利便性を高めます。
また、観光をきっかけに地域コミュニティが活性化する効果も重視すべきです。観光客との交流を通じて地域の文化や伝統が見直され、住民同士の絆が深まることが期待されます。地域の祭りやイベントへの参加や伝統工芸の体験など、観光を通じて地域文化への関心が高まり、地域アイデンティティの強化につながります。
地域企業にとってのメリット
観光を通じた地域活性化は、地域企業にとって多くのメリットをもたらします。
例えば、観光消費の拡大により地域内での消費が拡大すると、宿泊施設や飲食店、土産物店などの売上が増加します。これにより、地域企業の収益が向上し、経済的な安定が図られます。また、観光を通じた認知度の向上は、地域企業のブランド価値を高め、販路拡大を後押しする重要な要素です。
さらに、観光振興によって新たな産業分野や事業機会が生まれ、地域企業の連携や新規事業の創出が促進されます。例えば、地元の特産品を活用した商品開発や、観光客向けの体験プログラムの提供など、地域資源を生かした多様な取り組みが進められます。
全国から学ぶ観光活用による地域活性化の成功事例9選

観光を通じた地域活性化の事例は、それぞれの地域が持つ独自の魅力や資源を最大限に活用し、観光客を引き寄せるための戦略を展開している点が共通しています。
本節では、先進自治体による多角的なアプローチを紐解き、施策立案のヒントとなる具体的な成功例をご紹介します。
長野県山ノ内町:データ分析を活用した戦略的な観光振興
長野県山ノ内町の志賀高原では、観光協会の公式サイトに宿泊や飲食の直販機能を実装し、仲介手数料を抑えた収益性の高いビジネスモデルを構築しました。
特筆すべきは、予約や決済のデータから得られる地域データの統合と分析です。山ノ内町は会員サイト「CLUB SHIGA KOGEN」を通じ、顧客の入込状況やキャンペーンへの反応を可視化しました。このデータを活用して、個々のニーズに最適化したクーポン発行などのCRM(顧客関係管理)施策を展開しています。
その結果、メール開封率が60%を超えるなど高いエンゲージメントを獲得したのです。データに基づく精緻なマーケティングが、収益向上とリピーター獲得の好循環を生み出した好例といえます。
参照:国土交通省 観光庁「観光分野のDX推進に向けた優良事例集~地域一体で進める観光DX~」
静岡県焼津市:VR・AR・XR体験で魅力を発信
静岡県焼津市は、世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット」への出展を通じ、先端技術を活用した先進的なシティプロモーションを展開しています。
最大の特徴は、メタバースならではの体験型コンテンツにあります。バーチャル空間でのマグロ解体ショーや一本釣り体験、地場産品の3Dモデル展示など、ゲーム感覚で楽しめる施策を導入しました。ブースから直接ふるさと納税の寄付ができる導線も構築し、累計70万人を超える来場者を集めるなど、若年層を中心に高い関心を獲得しました。
現在は常設のバーチャル空間整備や、現実の街歩きとアバターを融合させる「Vket Walk」の活用も視野に入れています。単なる情報発信に留まらず、物理的な距離を超えた双方向のコミュニケーションを創出することで、中長期的な関係人口の構築を目指す自治体DXの先駆的な事例といえます。
参照:PRTIMES「静岡県焼津市とHIKKYがメタバースを活用した地域活性化に関する包括連携協定を締結」
埼玉県久喜市:キャラクターとデジタル技術による観光促進
埼玉県久喜市(旧鷲宮町)は、アニメ作品『らき☆すた』の舞台となったことを契機に、ファンと地域が一体となった持続的な観光振興を展開しています。
久喜市は商工会を中心に、作品の世界観を活かした独自のイベントや、AR(拡張現実)技術を用いた聖地巡礼コンテンツを整備しました。デジタル技術を介して物語の世界を現実の風景に重ねることで、訪問者に新たな体験価値を提供しています。
また、公式参拝や地元伝統行事へのキャラクター参加など、地域文化とコンテンツを融合させた施策も継続的に実施しています。
参照:日本政策投資銀行「コンテンツと地域活性化〜日本アニメ100年、聖地巡礼を中心に〜」
富山県南砺市:歴史・文化資源のデジタルアーカイブ活用
伝統工芸「井波彫刻」で知られる富山県南砺市の井波地域では、古民家を活用した分散型ホテルを核に、職人の技術や歴史的街並みを資源とした観光まちづくりを推進しています。
当初、宿泊客の増加に伴う夕食難民や、未活用資産の収益化といった課題に直面していました。現在は自治体やステークホルダーと連携し、地域経営体制の構築を急ピッチで進めています。
南砺市は若手世代が中心となって策定した「井波ミライビジョン2040」のビジョンのもと、地域の歴史的資源をデジタルアーカイブ化し、その提供価値を最大化する活用計画を立てています。令和6年に開催されたフォーラムでは、伝統芸能の披露や展示を通じて幅広い世代の共感を集めました。
参照:国土交通省 観光庁「歴史的資源を活用した観光まちづくり事業」
参照:富山県南砺市「井波ビジョン2040」
三重県四日市市:夜景・産業観光を軸としたプロモーション
三重県四日市市は、国内屈指の石油化学コンビナートを「工場夜景」という新たな観光資源へ昇華させ、産業都市ならではの独自のプロモーションを展開しています。
四日市市の成功要因は、単なる景観美の訴求に留まらず、公害を克服した歴史や環境学習、産業観光と組み合わせた多層的なコンテンツ設計にあります。また、他都市と連携した「全国工場夜景サミット」の開催や、戦略的なメディア露出を通じて、市外からブームを逆輸入させる手法で文化を定着させました。
さらに、語り部によるガイドを重視し、教育旅行の目的地としての価値も高めることで、都市イメージの刷新と地域活力の創出を両立させた先進的なモデルといえます。
参照:国土交通省 観光庁「観光地域づくり事例集~グッドプラクティス2018~ 第二章 特定のテーマに重点を置いた観光振興」
栃木県大田原市:自然資源・農村体験型観光の取り組み
栃木県大田原市では、観光資源の不足と農業の衰退という課題を解決するため、官民一体の「株式会社大田原ツーリズム」を設立し、農家に泊まる「農泊」を軸とした観光振興を展開しています。
本事業の大きな成果は、農業体験を通じた次世代との深い交流にあります。学生たちが農作業や古民家での生活を実体験するプログラムは、単なる旅行に留まらず、都市部と農村を繋ぐ貴重な教育の場となりました。
また、廃校や耕作放棄地といった遊休資産を体験プログラムの舞台として利活用することで、地域のマイナス資産を価値ある観光資源へと転換しました。農産物販売以外の新たな収益源を確保し、地域経済に活力を与えています。
参照:国土交通省 観光庁「観光地域づくり事例集~グッドプラクティス2018~ 第三章 地域資源の活用」
北海道室蘭市:社会基盤のインフラを観光資源とする施策
北海道室蘭市では、北日本最大の吊り橋「白鳥大橋」を中心に、公共施設を観光資源として開放する「インフラツーリズム」を推進し、地域経済の活性化を図っています。
本施策の目玉は、これまで立ち入りが制限されていた白鳥大橋の「主塔登頂」を観光客に開放した点です。地上約140メートルから360度のパノラマ絶景を堪能できる体験型コンテンツは、土木技術の魅力を直感的に伝える唯一無二の価値を提供しています。
さらに、この取り組みは単体で完結せず、近隣の世界文化遺産や温泉地などと連動した広域周遊ルートの核として位置づけられている点が特徴的です。既存のインフラに新たな体験価値を付加し、周辺の観光資源への立ち寄りを促すことで、地域全体の周遊価値を高めている事例といえます。
参照:国土交通省北海道開発局 室蘭開発建設部「インフラツーリズム」
愛媛県今治市:自転車を活用するサイクルツーリズム
広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ海道」は、日本初の海峡横断サイクリングロードとして、世界中のサイクリストを惹きつける「聖地」となっています。
本事例の強みは、本州四国連絡橋の中で唯一、自転車歩行者専用道路が併設されたインフラの独自性です。眼下に広がる多島美を全身で感じられる体験は、米CNNから「世界7大サイクリングロード」に選定されるなど、国際的にも極めて高い評価を得ています。
走行環境の整備のため、道案内の「ブルーライン」設置に加え、レンタサイクルや宿泊施設などの利便性向上、サイクリングガイドの養成など、ソフト・ハード両面で受け入れ体制を強化しました。絶景という自然資源と既存インフラを融合させた観光エリアを構築しています。
参照:国土交通省総合政策局公共事業企画調整課「しまなみ海道」
大分県別府市:アートや文化芸術を活用したまちづくり
大分県別府市では、日本屈指の温泉資源に現代アートを掛け合わせ、地域の魅力を再定義する独創的なまちづくりを展開しています。
単にアート作品を展示するだけでなく、温泉街の路地裏や古い民家、歴史的な建物を会場として活用した点が特徴的です。アートを媒介に、訪問者が街の日常や歴史に深く触れる仕掛けを構築しました。
また、アート活動の拠点を常設化することで、若手クリエイターの移住・定住も促進しました。伝統的な温泉文化と現代の感性が融合したことで、新たなコミュニティが形成され、街全体のブランド価値を向上させています。
参照:株式会社日本政策投資銀行 大分事務所「現代アートと地域活性化〜クリエイティブシティ別府の可能性〜」
佐賀県:古民家をものづくり交流拠点に転換(EWM支援事例)
東京・佐賀を拠点とするデジタル支援会社のEWMグループは、大正10年築の古民家をリノベーションし、ものづくりカフェ「こねくり家」を運営しています。
ランチやカフェを楽しみながら最新機器を使ったものづくりを子どもから大人まで体験できる施設として、地域の交流拠点となっています。「作り手同士が交流できる場に」というコンセプトのもと、多様なイベントを定期開催し、地域コミュニティの活性化に貢献しています。
遊休状態になりがちな古民家資産を地域価値に転換した事例として、空き家・空き施設の活用を検討している自治体にとって参考になるモデルです。
参照:株式会社イーダブリュエムファクトリー「ものづくりカフェ こねくり家」
佐賀県:地域ウェブメディアで情報発信力を強化(EWM支援事例)
EWMグループは、佐賀を代表するウェブマガジン「EDITORS SAGA(エディターズサガ)」を株式会社ビープラストと共同運営しています。地域のリアルな情報をさまざまな視点で毎日発信し、佐賀の魅力を継続的に発信し続けるメディアとして根付いています。
単なる観光情報サイトにとどまらず、地域の文化・産業・人をテーマに編集されたコンテンツは、地域ブランディングのあり方を示す好例です。
観光で地域活性化を成功させるポイント
観光を通じた地域活性化を成功させるには、単に観光客を増やすだけでなく、地域の魅力を最大限に引き出し、持続可能な形で地域資源を活用するための戦略的な取り組みが必要です。地域ごとに異なる資源や文化を生かしつつ、地域全体が一体となって取り組むことが成功のポイントとなります。
観光資源や地域の魅力の明確化
地域活性化において、観光資源や地域の魅力を明確にすることは、成功に向けた最初の重要なステップです。地域には自然環境、歴史文化、産業資源、食文化、そして地域住民の生活様式など、多様な観光資源が存在します。その魅力を地域ブランドと結びつけて発信することが重要です。
具体的には、地域の特性を活かしたキャッチコピーやロゴの作成、観光パンフレットやウェブサイトでの情報発信、SNSを活用したリアルタイムの魅力発信など、多様な手法が考えられます。こうした取り組みは、地域内外の関係者が一体となって行うことが成功の鍵となります。
ターゲット設定とプロモーション戦略
地域活性化において、観光を成功させるためにはターゲット設定とプロモーション戦略が不可欠です。ターゲット設定では、地域の特色や観光資源に合った観光客層を分析し、ニーズや嗜好を把握することが重要です。特定のニーズを持つ層へ照準を絞ることで、資源との最適なマッチングが可能になります。
プロモーションにおいては、SNSやメディアを戦略的に使い分け、共感を生むストーリーを発信することが重要です。また、双方向の対話を通じて訪問者の声を施策に反映させる姿勢も、信頼とリピーターを築く上で不可欠な要素といえるでしょう。
住民協働と受け入れ環境の整備
地域活性化において、観光を成功させるためには住民の協働と受け入れ環境の整備が欠かせません。
住民参加は、観光イベントの企画・運営、地域ガイドや体験プログラムの提供、地元の特産品開発への協力など、多様な形で実現が可能です。住民が主体的に関わることで、観光客にとってもより魅力的でリアルな地域体験が提供できるようになります。
受け入れ環境の整備には、訪れる観光客が快適に過ごせるように、インフラの充実や案内表示の整備、多言語対応の強化などが含まれます。特に、地域の特性を踏まえた観光マナーの啓発や、地域資源を守るためのルール作りも受け入れ環境の一環として重要です。
資金調達と持続可能な運営
観光振興を一時的な流行で終わらせないためには、安定的な財源確保と実効性の高い運営体制が不可欠です。観光事業は初期投資や運営コストがかかるため、多様な資金源を活用しながら、長期的な視点で経済的基盤を強化することが求められます。
資金調達の方法は、自治体の公的助成金や補助金、地域企業の出資、民間投資、クラウドファンディングなど多様です。また、経済効果を最大化するためには、収益管理の透明性や適切なコストコントロール、地域内での資金循環を促進する工夫が求められます。これにより、観光による利益が地域全体に還元され、活性化の好循環が生まれます。
デジタル技術と新たな体験創出
近年、地域活性化における観光の分野では、デジタル技術の活用が不可欠となっています。デジタル技術は単なる情報発信にとどまらず、地域資源を活かした革新的な体験を提供し、地域の魅力を多角的に引き出す手段です。
例えば、スマートフォンアプリを活用した観光案内やデジタルマップ、クーポン配布などは、訪問者の利便性を大幅に向上させ、地域経済の活性化に貢献しています。
さらに、SNSや動画配信プラットフォームを通じて、地域のユニークな魅力を広く発信することで、地域の知名度向上と旅行客の増加を促進することも可能です。こうした情報発信はターゲット設定やプロモーション戦略とも連動し、効果的な観光振興をサポートします。
まとめ:観光を通じた地域活性化の実現に向けて
地域活性化と観光の結びつきは、地域の魅力を再発見し、新たな価値を創造するチャンスです。都市部・地方を問わず、地域の特性を生かしたユニークな観光資源の開発や、デジタル技術を用いたプロモーションは、まちづくりに大きく貢献しています。
しかし、このプロセスには住民の協力や持続可能な運営が欠かせません。地域の魅力を引き出し、観光を通じた活性化を実現するために、まずは地元の魅力を再確認し、観光客に訴求できるポイントを明確にしましょう。そして、自治体や地域企業と連携し、効果的なプロモーション戦略を立てることが重要です。
次のステップとして、地域の観光資源を活用したプロジェクトへの参加や、周囲と協力してアイデアを出し合うことを始めてみてはいかがでしょうか。